世界には6万種以上の木があると言われています。木材として活用されている樹種もさまざまですが、その中でも最も希少な木材と言われているのがボグオークです。ボグオークとは数千年にわたって地中で眠っていたオークを指し、その希少価値の高さから時代を超えて多くの人々を魅了してきました。
今号ではそのようなロマン溢れるボグオークについてご紹介していきます。
樹木が何らかの理由で地中に埋もれ、長い年月をかけて圧力や熱を受けて炭化したものを「埋もれ木」と呼びます。日本では「神代木」と呼ばれ「神様からの贈り物」として珍重されてきました。この「埋もれ木」は日本だけでなく、世界でも発掘されることがあります。ヨーロッパからロシアにかけての沼地からはオークが掘り出されることがあり、それらは「ボグオーク」として世界中から愛されています。ボグ(Bog)とは沼、湿地帯という意味があり、ボグオーク(Bog Oak)は長い間、何千年にもわたって湖や沼、川の底などで眠り続け、炭化が進んだオーク材のことを指します。1960年に行われたアイルランドの泥炭発掘調査では、放射世炭素分析により4000〜7000年程前のものではないかと推定されるボグオークが発見されました。長い年月を経てその形態を変えていく様子から、西洋神代と例えられ、数ある樹木の中でも世界で最も希少価値があると言われています。高い圧力の中でゆっくりと炭化が進み、何世紀にも渡って熟成されたボグオークは、硬度が高まっているのも特徴のひとつです。
通常ならば倒れた樹木は微生物などに分解され土に還りますが、ボグオークは朽ちることなく樹木が生きていた当時のままの形状で現代に残っています。水中などの極端に酸素が少ない状態では木材を腐朽させる菌が繁殖することができません。酸素を奪われたオークは化石化の過程を経て、ボグオークへとなっていきますが、砂泥でパックされているため保存状態もいい状態で発見されることが多いと言われています。また、木材を通常の腐敗から守っている泥炭には、鉄塩やミネラルなどが豊富に含まれています。オークにはタンニンと呼ばれる成分が含まれており、泥炭に含まれる鉄分やミネラルがタンニンと反応し、表情を徐々に暗褐色からほぼ黒色に変えていきます。興味深いことに、このタンニンによる染色で腐敗や虫害にも強くなり、木材の保存状態を良くするのに役立つのです。タンニンの含有量などによって色の彩度も変わるため、どんな表情をしていて、どんな色合いなのかは沼から引き上げて製材してみないとわかりません。腐敗せずに保存されてきたことで生じる独特の色の濃淡が、他の木材では見ることのできない美しさを醸し出しています。
悠久の時を超え、独特の美しさが醸し出されるボグオークが「世界で最も希少な木材」とされているのは、何千年という長い年月だけが理由ではありません。
まず、ボグオークは出会うことが大変困難な材料です。探して見つかるものではなく、まさに運命的な出会いによって発見されます。日本で採取される「埋れ木」も、道路建設や河川改修などの工事の際に出土することがほとんどです。
また、発見されてもすぐに採掘できるわけではありません。沼の底に沈んでいる木材の位置を特定するために底部の調査が行われます。続いてプロのダイバーによって正確な場所と丸太の数を決定することで採掘計画が立てられ、ようやく採掘作業に入るのです。さらに、ボグオークの採掘は非常にデリケートな作業になります。採掘した丸太は乾燥に伴い表面割れや変形が生じるため、細心の注意を払って乾燥させなければなりません。それでもいざ製材してみると中が空洞だった…ということもしばしばあります。すぐに使える材料となるまでには、少なくとも数年はかかるとされています。
このように、ボグオークは発見も難しく、採掘、乾燥、加工など製品化されるまでに非常にデリケートな扱いが必要になります。さらに採掘されたボグオークのうち、製品化できる高品質なものはごく稀です。そのためボグオークは非常に価値が高く、「世界で最も希少な木材」と呼ばれているのです。
ボグオークはその美しさと希少性から装飾品として使用されることがあり、それゆえ、ヨーロッパではボグオークが地位の高さの象徴として使われていたとされるいくつかの伝説があり、チューダーピョートル大帝の王位を築くために使用され、ベネチアの宮殿やルイ14世の寝室のスイートの建設にも使用されたという説もあります。
古代から中世にかけて、ボグオークはヨーロッパの王室や貴族階級の間で特に重宝されました。その独特な色合いと美しい経年変化は、高貴な雰囲気を醸し出し、豪華な家具、装飾品、建築材料として広く使用されました。例えば、王室の寝室の家具や宮殿の内装にボグオークが使用されることがありました。また、ボグオークは聖職者や教会にとっても重要な素材でした。教会の祭壇や祭器、彫刻などに使用され、その黒く美しい外観が神聖さや厳粛さを表現するのに適していたのです。
最近ではその独特な色合いや経年変化、そして希少性から、宝石や貴金属と組み合わせてユニークなジュエリー作品を生み出す素材として注目されており、現在でも価値あるものとして扱われています。
マルホンがお届けするボグオークは、主に東欧で採れたものをヨーロッパで製材および人工乾燥、加工をしています。古来よりボグオークがよく発見される起伏のある特徴的な地形の場所から採掘されたボグオークは、推定3,000年以上前のものとされています。
マルホンではこのボグオークをフローリングと無垢一枚板でご用意しています。フローリングは希少なボグオークを贅沢にも厚さ3mmも使用し、挽板に仕立ててご用意しています。基材には寸法安定性の高いバーチ合板を使用しており、ボグオークの重厚感あふれる踏み応えと、寸法安定性を兼ね備えた商品となっています。また、色味はブラックとブラウンの2色に分けてご紹介しています。ボグオークの色味は人工的に作り出されたものではなく、自然の力と長い時間によって生み出されるものです。もちろん同じ表情のものはひとつもありませんし、どんな木の表情をしていて、どんな色合いなのかは沼から引き上げて製材してみないとわかりません。それぞれの色の中でも濃淡があり、どんなものが届くのかはその時次第です。自然が生み出す魅力を存分に楽しむことができます。
ブラック
ブラウン
一枚板は引き上げられた丸太の迫力がそのまま生かされており、同じ板の中でも微妙に異なる色味と溢れる生命力が見る人を魅了します。大変希少価値の高いボグオークの一枚板は定期的に入荷できるものではなく、その出会いはまさに運命です。実物は浜松本社ショールームでご覧いただけますので、ご興味のある方は実物をご覧いただくことをお勧めしています。
ボグオークから醸し出される魅力は、人工的に作り出した表情ではなく、自然の力と長い時間によって生み出される代物です。
何千年もの時を経て作り出されたボグオークとともに新たな物語を紡いでみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
・鈴木三男『日本人と木の文化』八坂書房.
・ブライアン・センテンス『世界の木工文化図鑑 木と道具と民族の技の融合』東洋書林.
・河村寿昌/西川栄明『【原色】木材加工面がわかる樹種事典』誠文堂新光社.
・ウッドペンクラフト「ペン木材について」 https://woodpen.jp/blog/wood/2020/06/14/(参照2023-7-4)
・BogOakDesignStudio「Bog oak is the most expensive tree in the world. 」https://bogoakdesignstudio.com/en/bog-oak/ (参照2023-7-4)
・The Wood Database「Bog Oak」https://www.wood-database.com/bog-oak/(参照2023-7-4)
・Bog Oak Sculptures「What is Bog Oak?」https://www.bogoaksculptures.com/about-bog-oak-sculptures/(参照2023-7-4)
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