無垢木材は、細胞のかたまりです。だから人間と同じように、個々の表情に木目(もくめ)といわれる特徴があります。それには長所といえるものもあれば、短所といえるものもありますが、ひとつとして同じものがないことが無垢木材の特徴です。
また、無垢木材は経年変化をします。樹種によって色味が明るくなるもの、濃くなるもの、色柄が馴染み落ち着いた表情になるもの、色相が変わるものと変化の仕方も個性豊かです。
そして、無垢木材にはぬくもりがあります。樹種によってそのぬくもりも変わり、硬い木よりも柔らかい木の方がよりあたたかさを感じます。
今回は、様々な特徴のうち表情に関わる木目(もくめ)、特にその中でも希少価値が高く、装飾性に優れて美しい、「杢」(もく)と呼ばれるものについてご紹介していきます。
経年変化について、木のぬくもりについては下記をご参照ください。
▼経年変化する無垢木材【691 号】
https://www.mokuzai.com/contents/column/aging/
▼やさしい木のぬくもり〜足を冷やさない木の秘密〜
https://www.mokuzai.com/LearningWood/in_di-92
「杢」とは、製材したときに木目に現れるさまざまな模様を指します。木の細胞(繊維)が規則的にずれて並んだり、または偶発的に並んだりする異常配列によって稀に生まれる模様が「杢」の正体です。「杢」ができる理由は、樹木が育った気候や風土など環境(風雪や土壌、自重)に自らを適応しようと内部応力で最適化(バランスを取る)することで、それにより繊維のねじれなどの癖が「杢」となるのです。そのため根に近い所、小さい芽や枝が集まっている所、枝の分かれ目などに出やすく、そうした意味では「杢」は、まさにその木が生育した環境を映し出す鏡と言えるのです。
「杢」は主に広葉樹に見られ、それぞれの名称は模様から連想的に、感覚的に付けられています。種類によっては、一風変わった見慣れない模様のため、傷や汚れのように見えてしまうかもしれませんが、一般的に古くから、「杢」の現れている木材は銘木と呼ばれ、その見た目の美しさ故に無垢一枚板(フリッチ)のテーブルなどの家具や楽器に重用されてきました。機能面ではなく、外観美から珍重されてきたのです。そしてそれらは「杢」が生み出す美しさから、単なる道具の域を越え、観賞用の工芸品のように長年大切に扱われてきました。
マルホンで扱っているフローリングや内装部材は原則として無垢木材であるため、「杢」が現れることがあります。メープルには鳥眼杢(バーズアイ)や縮杢(ちぢみもく)、アメリカンブラックチェリーにはさざ波紋(リップルマーク)、マホガニーやサペリにはリボン杢、ナラやヨーロピアンオークには虎斑。樹種によってそれぞれ異なり、さまざまな表情の「杢」を見ることができます。
あくまでもマルホンは、「杢」を経年変化やあたたかみなどと同じように、天然素材である木の愛すべき個性のひとつだと捉えており、製材された材面に、稀に現れる「杢」を強調した売りにはしていません。そうしたピースが稀に自然に入ることをお楽しみください。
以下では、先に述べた「杢」の代表的なものをご紹介していきます。
1.鳥眼杢(バーズアイ)
カエデ(楓・メープル)類に多く見られる「杢」で、小鳥の目のような小さな円形の斑点が、板面上にたくさん散らばって現れます。この斑点は木の中心に向かうにしたがって小さくなります。鳥眼杢の代表としては高級材のバーズアイメープルが有名です。
鳥眼杢が現れる原因は下記の通り諸説ありますが、はっきりとは解明されておりません。
・木部の造成過程で外部圧などから生じる繊維の錯走による
・軸方向の細胞の成長に影響を及ぼす菌類によってできる小さなくぼみに起因する
・虫害による
・遺伝による
数万本に1本しか現れず、その希少性の高さから高級車の車内パネルやシフトノブ、工芸品に使われることが多く、ギターのネックに使われることもあります。
2.縮杢(ちぢみもく)
トチやカエデ(楓・メープル)類、ウォールナットなどによく見られる、木目が波状に縮んでしわがよったように見える「杢」のことです。繊維方向の木目とは直交するように現れます。
風雨により樹木が曲がったり、枝の重みで樹木に荷重がかかったりすることで生まれます。楽器(バイオリンなどの弦楽器の甲板)や釣り具などによく使われており、中でも縮み杢のあるトチは茶道具や工芸品に使われるなど珍重されています。
3.さざ波紋(リップルマーク)
樹木の生長の過程や気候の変化による縮み、放射組織や構成要素の配列によって生じます。川の流れのように緩やかで、少し光沢があるように見え、角度によって表情が変化します。
トチやカキ、アメリカンブラックチェリーなどに見られます。リップルマークの現れるものは銘木と呼ばれ、家具やテーブルの天板、床の間の地板として賞用されてきました。
4.リボン杢
交錯木理の木材を柾目に挽いたときに現れる木目で、光の具合によって順目と逆目が交互に縞模様になって見えます。
交錯木理*とは、いくつかの年輪層とその隣の年輪層とが繊維の方向を違え、旋回しながら成長することにより生じるものです。成長輪や乾季の雨により生ずると言われており、雨季と乾季が分かれている地域の輸入材であるマホガニーやサペリなどに現れます。それらの木材は家具材、彫刻材、彫刻材、楽器、内部装飾材や高級車のダッシュボード、ハンドル、シフトノブなどに用いられています。
*木理・・・材面に現れた細胞の並び具合の状態。
5.虎斑
柾目を横切るように現れる杢目のことを「斑(ふ)」と呼び、ナラ(オーク)やブナ、カシ類に見られる斑は、大きく虎の毛皮のような縞模様から、虎斑(とらふ)と呼ばれています。
木の中心部分から放射線状に栄養分を蓄えている放射組織(射出線、髄線)により現れます。放射組織とは木の内部で木理方向に直行する形に伸びた細胞で、樹木の水平方向に養分を送るためのものです。周りの組織と密度が異なり、細胞壁が薄いためコントラストが付き、光沢があって銀色にも見えることから銀杢(ぎんもく)とも呼ばれています。一見傷や欠点のように見えるかもしれませんが、実は虎斑の出ている部分はほかより摩耗に強く、良い部材なのです。
かの有名な建築家フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright、1867年6月8日 – 1959年4月9日)は虎斑を好んだと言われています。設計した複数の作品において調度品や内装材には、切断された木目が美しいという理由でオークが使われており、ここ一番の家具には虎斑の現れるオークの材面が使用されています。完璧主義者で、使用する木材の選定まで徹底的に管理していたと言われるライトの、木材に対する深い造詣や愛情、こだわりが見て取れます。ここでの虎斑は紛れもなくオークの大きな個性として扱われています。一見短所とも取れるようでも、特徴や歴史を知ることと、こちらの捉え方ひとつで、愛すべき大きな個性だと感じられるのです。
木は自然のものです。1本1本違ってそれぞれに個性があります。樹種によって、ピースによって、切る角度によって現れる表情はさまざまで、同じ物はありません。これまでで見てきたように、その最たるものが「杢」です。無垢木材の表情は一つ一つ異なり、「杢」の現れる理由もそれぞれ違っています。まさに自然の模様、自然の織り成す美しさです。住宅で無垢フローリングをお使いいただくと場所によっては「杢」が現れます。張ってすぐ気付くもの、お住まいいただく日々の中で見つけるもの、それぞれあると思います。その「杢」を見て、これはどのようにできたのか、なぜそのような表情をしているのか、どのような歴史があるのか。無垢木材の一つの楽しみ方として、思いを巡らせて見てみるのはいかがでしょうか。
参考文献
ニック・ギブス(2005)『木材活用ハンドブック』ガイアブックス.
岡野 健(1988)『木材のおはなし』日本規格協会.
宮本 茂紀(2005) 『椅子づくり百年物語: 床屋の椅子からデザイナーズチェアーまで』OM出版.
マルホンの無垢木材について
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無垢木材の「質感」・「香り」・「あたたかみ」を実際に体感いただくため、 株式会社マルホンでは、浜松と東京、大阪、福岡の4箇所にショールームを開設。 いずれもフローリングやパネリングを始めとする、国内外の豊富な木材をご紹介しております。
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