皆さんは普段どのような光の下で生活されていますか。日中は窓から差し込む太陽の光で生活される方も多いと思いますが、日が沈むと照明を灯して生活される方がほとんどではないでしょうか。同じ「光」と言っても、太陽や照明など、光を発するもと(=光源)が変わることによって、空間の雰囲気は異なってきます。また、同じものでも、そこに当たる光の種類が異なると、全く違った表情に見えることもあります。
昔から、光は人の生活に大きな影響をもたらしてきました。それは人だけでなく、木材にとっても同様です。そこで今号は光が木材と人体に与える影響についてご紹介いたします。
木材は時間の経過とともに色味が変化します。色の変化には微生物や金属の影響など様々な要因がありますが、最も大きな要因は光です。
光にはさまざまな波長があり、特に紫外線は木材に強く影響を与えています。木材の主成分であるリグニン(英: lignin)*は最も光に敏感で、紫外線などの光を吸収して分解し、変性していきます。その過程で木材の色は変化していくのです。なお、光による色の変化は樹種によって様々ですが、木材の色が変化するのは表面から約0.3mmの深さまでと言われています。
また、屋外に使用していると木材はシルバーグレーに風化していきますが、これも光とリグニンが関係しています。リグニンは木材の骨格を形成しているセルロース**を補強する役割を担っていますが、光を吸収してリグニンが分解されると、セルロースは支えを失うことになります。そこに雨が降り注ぐことによって、セルロースは水に流され、木材の繊維が表面から剥がれ落ちていき、風化していくのです。
詳しくは下記をご参照ください。
木材の主成分の一つであるリグニンが分解されるということは、紫外線が化学反応に使われているということです。つまり、浴びすぎると人体にも悪影響が出る紫外線を木材が吸収しているということであり、木材は建材に向いていると言えるのです。
*リグニン…木材を構成する高分子化合物。高等植物中で植物の木化に関与する。木材中の20~30%を占め、セルロースと結合した状態で存在する。
**セルロース…植物の細胞壁の主成分をなす多糖類の一種。
<概日リズム>
人の一日は、光と密接な関わりがあります。人は、太陽の動きと連動して、朝になると自然に目覚め、日中は脳も体も活発に活動し、夜になると眠りにつくというようなリズムで生活しています。これは概日(がいじつ)リズムと呼ばれ、約24時間周期で繰り返されています。近年、目から入る光が、人の概日リズムを調整する役割を果たしており、健康に関係があることがわかってきました。
<光と睡眠>
人間が健康的な生活を送るためには、睡眠の質が重要だとされています。睡眠の質を高めるためには、脳から分泌されるメラトニン(英: Melatonin)というホルモンが必要不可欠です。メラトニンの分泌には光が大きく関わっており、目から一定の光が入ると、その分泌が抑制されることがわかっています。
まず、メラトニンは朝から日中にかけてはほとんど分泌されません。夜になると分泌量が増え、脈拍・体温・血圧がさがるなどの変化が起こることで睡眠のための準備が整い、眠気を感じるようになるのです。そして朝になりその分泌が止まると、身体は目覚めへと向かうのです。
夜に強い光を受けたり、夜遅くまで青色光を発するパソコンやスマートフォンを操作しているとメラトニンの分泌が抑制され、寝つきが悪くなったり途中で目が覚めてしまったりします。それは、光の中でもその波長(すなわち光の色)によって抑制度合に差が生じ、特に青色光によってメラトニンの分泌が抑制されやすくなるからです。
良質な睡眠をとり健康的で活動的な生活を送るためには、夜に特に青色光に当たることには注意が必要なのです。
エネルギー使用量が少ないため、省エネ対策に活用されていることでも知られるLEDが普及してきていますが、現在、それに次ぐ次世代照明としてOLED(有機EL、英: Organic Electro Luminescence、Organic Light Emitting Diode)が注目されはじめています。OLEDというと、スマートフォンやテレビなどのディプレイというイメージが強いと思いますが、照明としても多くの可能性を秘めており、様々なところで活用されはじめています。
OLEDは太陽光に近い光の分布で、演色性***に優れ、さらには物を変化させる紫外線を含みません。また、一般の廉価なLEDの分布と比較して、(i) 波長****の長い赤色光成分を豊富に含む、(ii) 波長の短い青色光の含有量が少ない等の特徴があります。
例えば、(i)の特徴を活かした使用例としては、鏡の前のメーク用照明や検査用照明があります。長波長の赤色光は、障害物を回り込みながら青色光よりも奥深い部分まで到達するため、人の肌や髪の状態、きめ細かな織物の繊維状態等がよりクリアに見えるのです。更に、OLEDの面発光は反射や影が少ないという特性からもよりナチュラルな見え方となり、LEDと見比べたときに違った印象を受けます。さらに、クリアにナチュラルに見えるのみだけでなく(ii)の特徴も活かした施工例としては、美術館や博物館等の照明があります。展示物が本来の色どおりに再現されて見えるだけでなく、それに与えるダメージも少ないので、長期保存をしながら展示することが可能になるのです。木材において考えると、OLEDの光は、木目等の表情を自然そのままに美しく見せてくれ、経年による変化も少ないということと言えるでしょう。
***演色性…ある物体を照らした際、その物体の色の見え方に及ぼす光源の性質のこと。演色評価数は、自然光を基準として数値化(JIS化)されたもので、高い数値のものほど優れているとされる。R1~R8の8色を用いた平均演色評価数では、太陽光や白熱球は100、一般の蛍光灯は80程度相当が多い。
****光の波長…人の目で見える光(可視光線)のうち、光の波長の短いものから紫→青→緑→黄→赤となっている。見えない光としては、紫より波長の短いものは紫外線、赤より波長の長いものは赤外線と言われている。
実際の空間ではさまざまな種類の光源が空間を照らしています。光によって、木材の見え方もさまざまです。実際に光の違いによる木材の見え方の差を写真で比較してみましょう。<光源の種類による違い>
下の表は左から白熱電球、蛍光灯、LED、OLEDの光(色温度はすべて電球色)を当てた木材(ヨーロピアンオーク、ウォールナット、サペリ、チーク、メープル、スギの5樹種)を画像で比較したものです。
白熱電球の光を当てた木材は、あたたかみがあり色鮮やかで立体的に見えます。一方で、蛍光灯の光は、やわらかく影ができにくくフラットな印象になります。LEDは蛍光灯に近い青白に見えますが、OLEDは白熱電球同様にやわらかなあたたかみのある印象になります。更にOLEDは対象物を面で照らすため影になりにくく、自然光の下にあるかのような均一な照らされ方となり、より自然な木の表情を楽しめます。
このように一口で照明といっても、その種類によって物の見え方が異なってくるため、空間の使用用途やご希望のイメージ合わせて選ぶと、より理想に近い空間になるはずです。
<色温度による違い>
光源の種類が同じでも、色温度が異なると見え方に大きな差が生じます。
色温度とは、光源が発する光の色を表すための尺度のことです。光源の温度や明るさとは関係がありません。色温度が低いと暖色系の色を発し、色温度が高くなるにつれて寒色系の色を発します。
下の表はそれぞれ白色(4,000K(ケルビン))とそれよりも色温度が低い電球色(2,800K)のLEDとOLEDの光を当てた木材(ヨーロピアンオーク、ウォールナット、サペリ、チーク、メープル、スギの5樹種)を比較したものです。白色光はスッキリとした爽やかな印象で、電球色の光を当てた木材は赤みがかって見えるため、あたたかみのあるやさしい印象になります。空間に置き換えて考えると、白色は日の出から2時間前後の太陽光、また電球色は、日の出や日没時に近い光で人をリラックスさせる効果があるため、寝室や食卓などくつろぎが求められる場所に適しています。
空間において、床は大きな面積を占めており、インテリアを構成するうえで最大の要素となります。どのような床材を選ぶかで、その空間の印象は大きく変わります。また、その空間全体を照らす光においても、重要性は同様です。
ライフスタイルの多様化が進み、無垢木材も光も質が求められる・選べる時代になっています。より快適で心豊かな生活を送れるような、こだわりのある空間づくりの参考にしていただけますと幸いです。
<参考文献>
佐藤健(2001)『木がわかる―知っておきたい木材の知識』学芸出版社
社団法人日本林業技術協会編(2001)『ウッディライフを楽しむ101のヒント』東京書籍.
一般社団法人日本照明工業会・一般社団法人日本照明委員会・特定非営利活動法人LED照明推進協議会・一般社団法人照明学会(2014)「LED照明の生体安全性について~ブルーライト(青色光)の正しい理解のために~」,[online] http://www.jlma.or.jp/anzen/chui/pdf/ledBlueLight.pdf(参照2017-6-21)
マルホンの無垢木材について
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