「メープル」という名前からは、遠い異国の木をイメージするかもしれませんが、「カエデ」や「モミジ」と言うと、身近に感じるのではないでしょうか。秋に葉が紅葉(黄葉)し、美しい景観をつくるメープルの木は、甘いシロップが採れることでも有名です。
メープル材は、体育館やボーリング場、ダンス場などのフロアといった建材としてのイメージが強いかもしれませんが、他にも楽器や家具、スポーツ用品などさまざまな場面で活用されています。
今号では、メープル材をご紹介します。
画像1:メープル無垢フローリング施工例
メープルの木は、日本で「カエデ」と総称されます。葉の形がカエルの手に似ていることから、「かえるで」が変化し、そう呼ばれるようになったと言われています。日本では「紅葉」の代表的な樹木として古くから親しまれ、深まる日本の秋に風情を添えてきました。
日本人にとって身近な植物である「カエデ」は、世界的にさまざまな用途に活用されてきました。古代エジプトではメープルの木から採れるシロップや根を薬としたり、葉を冷却湿布としたりして使われていたと言われています。また、中世ヨーロッパでは、メープルの木は土壌を酸性にせず良質な腐葉土を作ることから、牧場や農場の近くに植えられ、葉は家畜の飼料となりました。
非常に多くの種類が存在するメープルの木は、そのほとんどが北半球に分布しています。ここでは代表的なメープル材をご紹介させていただきます。
【東アジア産のメープル材】
■イタヤカエデ
ペインテッドメープル(英:Painted maple、学名:Acer mono)のことで、雨宿りができる板屋根のように葉が密集して茂ることから、和名で『イタヤカエデ』と呼ばれます。景観街路樹として植えられることもあり、園芸にも用いられます。多くの亜種が存在し、「イタヤカエデ」はその総称名です。日本、ロシア、中国及び朝鮮半島などが原産で、幹は暗褐色で平滑、高さ15~20mに成長します。春に黄緑色の花が咲き、秋に葉が黄葉します。
【北米産のメープル材】
■ハードメープル
北米産メープル材の中で、シュガーメープル(英:Sugar maple、学名:Acer saccharum)、ブラックメープル (英:Black maple、学名:Acer nigru)などの木は『ハードメープル』と呼ばれます。イタヤカエデと比べ、やや白い表情で、バーズアイなどの「杢」も小さく穏やかに入るのが特徴です。密度が高く、耐衝撃性や圧縮強さに優れるため、ボーリングのレーンやダンスホールの床材といった強度を求められる部材として使用されます。
シュガーメープルは和名で『サトウカエデ』と呼ばれます。その名の通り、樹液にたくさんの糖分を含み、メープルシロップの原木として有名です。日照が少ない環境でも生育し、日本の在来種カエデと比べると大ぶりで、樹高40m、直径0.6~1mほどになります。深く根をはり、水を汲み上げるポンプのような働きをするため、森の中で生きる他の植物にとって、水を運んでくれるありがたい存在です。シュガーメープルの葉は、カナダ国旗や金貨、切手のデザインに取り入れられていることでも有名です。秋になると葉色は鮮やかな黄から赤、オレンジまで色とりどりに紅葉するため、景観樹としても使われています。
ブラックメープル (英:Black maple、学名:Acer nigru)はシュガーメープルと比較すると、葉の形状が丸みを帯びており、より北部の湿った場所にも分布しています。
■ソフトメープル
『ソフトメープル』と呼ばれるものとして、レッドメープル(英:red maple、学名:Acer Rubrum)、シルバーメープル(英:silver maple、学名:Acer Saccharinum)が代表的です。ハードメープルと比較すると強度は約25%低く、軽軟で加工しやすい材です。美しい木理が現れやすいので、化粧面材としても使用されます。
メープル材の一番の特徴は、散孔材ならではのおとなしい木目と、きめが細かく光沢のある木肌です。薄い赤味をさした淡い乳白色のやわらかい表情が、明るくやさしい印象を与えます。イタヤカエデやハードメープルは、気乾比重が0.7前後で、曲げ強さ、圧縮強さが高いのも特徴のひとつです。粘りがあり、割れにくいので曲木にも適しています。また、その強度を活かし、野球のバット材料となります。バット材に使用する木材としてはアオダモが有名ですが、メープル材のバットは硬く、反発力があるため、メジャー通算本塁打数の記録保持者であるバリー・ボンズ選手をはじめとした長距離打者から好まれました。松井秀樹選手もメジャー移籍後はメープル材のバットを使用していました。さらに、メープル材は、楽器材としても多く使用されています。構造的に負荷のかかるピアノ部材をはじめ、バイオリンなど弦楽器の背板、エレキギターのネックなど、さまざまな楽器に使用されています。メープル材を使用した楽器は、サスティン(減衰音の持続性)が少なく、硬質なサウンドで実音が聞き取りやすいといった特徴があるそうです。さらに、後述する意匠的に美しい「杢」があるものはトップ材としても使用され、数多くの名器に華を添えています。そのようなメープル材は、時を重ねることで淡い乳白色から飴色へ変化し深みを増していきます。
画像5:メープル材を使用した楽器 出典:Gibson Guitar Corporation Japan
メープル材には時として美しい表情の「杢」が現れます。無垢木材ならでは楽しめるもので、意匠的に珍重され、さまざまな化粧材に使用されます。見る角度できらめきが変化し、私たちの目を楽しませてくれるのです。中でも特徴的なものをご紹介します。
■縮み杢
風雨によって樹木が曲がったり、枝の重みで樹木に荷重がかかったりすることで、繊維が波状になることで生じる縞の杢です。目が細かく均一なものは弦楽器の背板に用いられるため、「バイオリン杢(英:Fiddle back figure)」と呼ばれることもあります。
■鳥眼杢(バーズアイ)
メープルを代表する鳥の目のような渦巻き状の斑点で、珠杢の1種です。鳥眼杢が現れる原因は諸説あり、はっきりとは解明されていません。その模様は数万本に1本しか現れないと言われており、その希少性から大変珍重されています。
メープル材をインテリアに使用する場合、木目が穏やかで、淡くやさしい色味のため、シンプルかつ清潔感のある印象になります。メープルのフローリングは、自然素材ならではの心地よさとその風合いから、心地よい空間で活躍しています。
例えば、日照時間の少ない北欧では、室内のベースカラーであるフローリングを明るい白色にすることが少なくありません。これは限られた太陽の光を室内へ導くための工夫です。そうした淡白なフローリングに対して、パステルカラーや鮮やかな色彩をカラフルに使う家具などに取り入れることが「北欧インテリア」の基本です。気候が厳しい地域も多く、家にいる時間が長いため、明るく居心地が良いことが重要となるのです。
また、近年ではインターネットの普及から、オフィスとホームのボーダレス化が進み、自宅で仕事をする人たちも増加しています。同じ空間で長時間滞在する人々にとって、居心地のよいインテリアは重要です。そこで、一般的なオフィス環境も、家のようにリラックスできる空間であることが求められる傾向にあり、手法として光や風、緑を積極的に取り込むインテリアが増えています。北欧インテリアにおいてポイントとされている「長時間いても居心地の良いこと」が、オフィス空間においても求められるようになってきているのです。
絹のようにきめの細かい光沢のある表面と穏やかな木目をもつメープル材も、グレードの違いで大きく表情が異なります。
当社のメープル無垢フローリングは、イタヤカエデ、ハードメープルといった強度の高い材から、木柄が整ったプライムグレードと、あえて節や辺材を活かしたラスティックグレードをご用意しています。ラスティックグレードのメープル無垢フローリングは、表情豊かに程よく素朴さが増し、黒系の家具と合わせると、どこかクールな印象にもなります。
画像8:メープル 無垢フローリング 120mm巾 プライムグレード(品番:FMPR07-105)
また、床暖房に対応した挽板フローリングもございます。複数層で構成された挽板フローリングに仕立てることで、床暖房への対応が可能となり、待望の白い表情の床暖房対応フローリングが誕生しました。厚さ3㎜の挽板は浸透性塗料で仕上げることが可能なため、木本来の質感を無垢木材と同じように楽しむことができます。当社ではメープル材を原板にて仕入れておりますので、階段、框などオーダーメイドで造作することができ、フローリングに合わせて全てコーディネートすることが可能です。
明るく木目のおだやかなメープル材は、ベンガラ塗装にも対応しています。ベンガラは石天然の土から採れる無機顔料です。合成塗料による均一的な着色とは異なり、素材の表情や質感を活かしたまま色彩豊かに仕上げることができます。
画像10:「ベンガラ」カウンター施工例
木材そのものの色が白くすっきりとした表情のメープルは、ベンガラ塗装の発色が良く、鮮やかな色合いに仕上がります。ベンガラを施すことで、インテリア空間にメリハリをもたらすことができます。昔から人々の生活の身近に存在し、幅広い用途で使用されてきたメープルの木は、さまざまな生活シーンに取り入れることが可能です。私たちの生活を豊かに彩るメープル材をお部屋に取り入れてみてはいかがでしょうか。
>人気の樹種 メープルフローリング
>オーダーメイド内装部材
>選べる塗装:ベンガラ
<参考文献>
ニック・ギブス(2005)『木材活用ハンドブック』(乙須敏紀訳)産調出版.
浅井治海(2006)『森と樹木と人間の物語-ヨーロッパなどに伝わる民話・神話を集めて-』フロンティア出版.
リズデイル、コリン・ホワイト、ジョン・アッシャー、キャロル(2007)『樹木』(杉山明子・清水晶子訳)新樹社.
須藤彰司(1997)『カラーで見る世界の木材200種』産調出版.
ギブス、ニック・リーチ、ルシンダ・リンカーン、ビル・マーシャル、ジェーン(2006)『世界木材図鑑』産調出版.
村山忠親著(2013)『増補改訂 原色木材大辞典185種』(村山元春監修)誠文堂新光社.
小泉隆(2017)「北欧建築 エレメント&ディテール」学芸出版社.
「“働き方改革”の時代に設計者はどんな価値を提供できるのか」『商店建築』2019年4月号p66-69
マルホンの無垢木材について
よく分かるカタログを無料でお届けしています。
お気軽にお申し込みください。
無垢木材の「質感」・「香り」・「あたたかみ」を実際に体感いただくため、 株式会社マルホンでは、浜松と東京、大阪、福岡の4箇所にショールームを開設。 いずれもフローリングやパネリングを始めとする、国内外の豊富な木材をご紹介しております。
専門スタッフが適材適所の木材選びをサポート。 目で見て、手で触れて、ダイレクトに感じて、ご希望に合った無垢木材をお選びください。