日本において最も馴染みのある樹種の一つであるヒノキは、古くから最高級の建材として使用されてきました。ヒノキの代表的な建造物には、日本最古の木造建築である法隆寺や、20年に一度の式年遷宮で知られる伊勢神宮などがあります。1000年以上を経た今なお堂々とそびえ立つ法隆寺を見ても分かる通り、耐久性においては他に類を見ない優れた樹木です。
今回はそうしたヒノキの建材として、日本三大人工美林のひとつに数えられる三重県の「尾鷲ヒノキ」を使用した、床暖房対応の挽板フローリングについてご紹介します。
■尾鷲ヒノキの特徴
吉野スギ(奈良県吉野郡)、天竜スギ(静岡県浜松市天竜区)とともに「日本三大人工美林」と称される尾鷲ヒノキは、世界遺産・熊野古道伊勢路の道中、三重県尾鷲市と紀北町に生育しています。この場所の独特な地形が、他産地のヒノキとは一味違う、尾鷲ヒノキの魅力の要因となっているのです。
尾鷲市は、太平洋を臨む海沿いの町でありながら、背後にそびえる大台ケ原山(標高1,695m)までの直線距離が16㎞と、海のすぐ側に山がそびえ立つというとても急峻な地形をしています。この地形は、屋久杉で知られる屋久島に似ており、「ひと月に35日雨が降る」と言われる屋久島に負けず劣らず、尾鷲も降雨量が多い市のひとつとして知られています。なぜならば、海からの湿った空気が急峻な山にぶつかって冷やされることにより、雲ができ雨に変わるからです。
このように降雨量の多い急斜面では、一般的に土壌が育ちにくいため、樹木の成長は遅くなってしまいます。しかしながら、この成長の遅さによって、年輪の間隔が狭まり、目の詰まった良材が生み出されるのです。そして、高温多雨な気候からは、油分が多く粘りの強い、また通常より香りの強い、鮮やかな赤味を帯びた尾鷲ヒノキが育まれるのです。
画像2:尾鷲ヒノキ無垢フローリング施工例
当社では、国内で初めてFSCⓇ認証(FM認証)を取得した速水林業とタッグを組み、尾鷲ヒノキフローリングの開発に取組んできました。FSCⓇ認証とは、1993年にカナダで設立されたFSCⓇ(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)による認証制度です。
速水林業は2000年に日本で初めてFSCⓇ認証を取得し、「美しい山造り」をテーマに環境配慮型の森林経営に取り組んでいます。その特徴は、林道の整備、下草や広葉樹を繁茂させることによる土壌の育成、光を常に取り入れるための計画的な間伐・枝打ち、タワーヤーダーなどの集材機械の導入など多岐にわたります。前述の通り、土壌が育ちにくい地形にあって優良な尾鷲ヒノキを生育できるのは、これらの取り組みによるものです。特筆すべきは、速水林業で実施している4,000本/ヘクタール(以下、ha)という密植(=木を密に植えること)です。日本の平均的な植林本数である3,000本/haと比べると、その特殊性が良く分かります。あえて密に植える理由は、当初林内を暗くすることで下枝を枯らし、中心部においても枝のないヒノキをつくるためです。そのため、フローリングとして製材した際においても、節の少ない良材が取れるのです。また、その後は適切な間伐を行うことで、先に述べたように下草を発生させ、急峻な地形に豊かな土壌を生み出します。これには土壌微生物や野生動物を増加させ、水を美しくするという効果もあります。
さらには、毎年尾鷲に林業関係者を集めて開催される「林業塾」をはじめとする日本林業界への貢献にも目を見張るものがあります。(そうした功績がたたえられ、速水林業の経営者である速水亨、柴乃夫妻は、平成30年10月19日に平成30年度(第57回)農林水産祭において天皇杯を受賞しました。)
このように、独自の取り組みを続けている速水林業産の尾鷲ヒノキを、唯一無二の床暖房対応品としてご用意いたしました。尾鷲ヒノキについては、以下の記事もあわせてご参照ください。
足元から部屋全体を暖めてくれる床暖房は、人気の高い暖房方法です。しかし、エアコンや暖炉などとは異なり床材を直接あたためるため、フローリングにとっては厳しい環境となります。通常よりも大きな温度変化、過乾燥がもたらされることにより、床材が大きく動き、反りや割れなどが生じる可能性が高まるのです。それらを防ぐため、床暖房に使用するフローリングには、通常のフローリング以上に温度や湿度の変化への強さ、すなわち寸法安定性(=動きにくさ)が求められます。この動きにくさを実現させた製品のひとつとして、当社では、無垢フローリングのほかに「挽板フローリング」をご用意しています。
当社の床暖房対応挽板フローリングは、表面材を鋸で厚挽きした3mmの無垢材を使用しています。挽板であってもできるだけ木質感を感じていただけるよう、厚く挽いた無垢材にこだわりました。床暖房対応の無垢フローリングの場合、寸法安定性の観点から、幅の広いフローリングをご用意することは非常に困難です。幅が広ければ広いほど、無垢材の動きが大きくなるためです。しかし、挽板フローリングにすることで、より広い幅で製品化することができます。「床暖房に対応し、幅広で、オイルフィニッシュのフローリングが欲しい」とお考えの方などにお薦めです。
なお、当社でご用意している「床暖房対応品」は、反りや割れなどの心配なく、床暖房にご使用いただくことができます。さらに挽板フローリングは、合板にもFSCⓇ認証材を使用しています。一般的に使用されている南洋材合板ではなく、寸法安定性の高いバーチ合板を使用したFSCⓇ認証100%の合板です。また、合板と表面材の接着剤には、ホルムアルデヒド等級において、含まれていないということで最上位であるF☆☆☆☆を取得したものを使用し、健康面にも配慮をしています。床暖房対応製品についてさらに詳しくご覧になりたい方は、以下をご参照ください。
■FSCⓇ認証材とは
前述の通り、FSCⓇ認証とは、1993年にカナダで設立されたFSCⓇ(Forest Stewardship Council=森林管理協議会)による認証制度です。認証には2種類あり、FM(Forest Management、森林管理)認証とCoC(Chain of Custody、加工・流通過程)認証があります。その目的は「環境保全の面から見て適切で、社会的な利益をもたらし、経済的にも持続可能な森林管理」の推進であり、認証を受けた製品はFSCⓇのロゴマークを使用することができます。FSCⓇのロゴマークが入った製品を買うことで、消費者は世界の森林保全を間接的に応援できるという仕組みです。紙コップやトイレットペーパーなど、我々の身の回りでも多くのロゴマークを見つけることができます。
1990年、当時の国際オリンピック委員会会長のサマランチ氏が、五輪の三本柱として「スポーツ、文化、環境」を提唱したことを契機として、FSCⓇ認証材はオリンピックの使用木材としても注目を集めています。その利用率は、2010年のバンクーバーオリンピックでは約75%、2012年のロンドンオリンピックでは約95%と、徐々に増えてきました。この流れを受け、2021年に開催予定の東京オリンピックにおいても、関連施設や印刷物などへのFSCⓇ材の使用が検討されています。
FSCⓇ設立から20年以上を経た現在では、世界81ヵ国で、日本の国土面積の約5倍に当たる約2億175万haもの森林が認証されています(2018年9月時点)。なお日本におけるFSCⓇ森林認証面積は、国土の約10%に相当する約40万haです(2018年9月現在)。中でも、当社の本社が位置する静岡県浜松市では、FSCⓇFM認証を取得した2010年を皮切りとして、現在では市町村別取得面積において全国第1位の認証林(約4万ha)を擁してしています。(2017年4月時点)
もちろん世界規模での環境への取り組みは、FSCⓇだけではありません。国連サミットでは、2015年9月にSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)と呼ばれる国際社会共通の目標が定められました。国連加盟193か国の合意のもとに、2016年から2030年までの15年間で達成すべく掲げられた目標です。世界が抱える問題を解決し、持続可能な社会をつくるための17の目標と169のターゲットで構成されています。この中には、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」などといった目標が含まれています。
このように、FSCⓇをはじめとした持続可能な社会への取り組みは、大きなムーブメントになりつつあります。しかし、FSCⓇ認証材を使用することが持続可能な社会へ繋がるという図式は、一見すると分かりづらいものです。ここでは、FSCⓇ認証材を使用することの意義についてご紹介します。
残念ながら、世界各地では未だに違法伐採が横行しています。そういった地域では、違法伐採によって森林がなくなることにより、水源が失われます。身近な水源が失われてしまうため、子どもたちは、何十キロも先まで水を汲みに行かなければならなくなるのです。移動距離の増加は、勉強時間の減少、社会進出の機会の損失、ひいては飢餓や貧困を招く原因となります。これは一例ですが、FSCⓇ認証材を使用することにより、このような事態を防ぐことができるのです。また、管理された適切な森林から取れた木材製品を使うことは、森林保全の手助けにも繋がります。限りある資源を守っていくという点においても、有益な選択であると言えます。
美しい尾鷲ヒノキを、環境面にも配慮し製品化した、唯一無二の床暖房対応挽板フローリングです。床暖房非対応の無垢フローリングや、玄関框などもあわせてご用意しております。
<参考文献>
「FSCジャパン」https://jp.fsc.org/jp-jp(参照2018.10.12)
「FSC Facts&Figures September 6, 2018」https://ic.fsc.org/en/facts-and-figures(参照2018.10.12)
「浜松市公式ホームページ」https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/index.html(参照2018.10.12)
マルホンの無垢木材について
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