2019.11.25 | パープルハート
名前の通り紫色をした、珍しく個性的なパープルハート(学名:Peltogyne spp.)。別名バイオレッドウッドとも呼ばれています。日本ではなじみが薄い樹種ですが、アメリカやヨーロッパでは家具や工芸品などに広く使用されてきました。「天然の紫色をした木材」は非常にインパクトが強く、ユニークな樹種であるといえます。そうしたパープルハートは、どのような使い方が出来るのかご紹介していきます。
画像1:パープルハート無垢フローリング施工例
世界の森林は、気温や湿度などの気候条件や生息する立地や緯度により植生が変化します。パープルハートの植生は、世界の熱帯雨林の50%を占めるアマゾン川流域を中心とした地域です。地球上の熱帯雨林には生物の過半数が生息しているといわれ、独特のバイオーム(生物群系)(英:Biome)を形成しています。樹木においても、この中南米だけでも数万種が存在しているといわれ、そうした種類の豊富さに加え、世界的にほとんど共通性のない個性豊かな樹種が存在し、パープルハートもその一つといえます。
パープルハートはマメ科に属する木で、堅く耐久性に優れており、またその鮮やかな色からろくろ細工や寄木細工・ビリヤードのキューなどにも古くから使用されてきました。
パープルハートは、伐採後に独特な経年変化をしていきます。名前の通り紫色のイメージが強いですが、伐採直後は紫色ではありません。それが空気にはじめて触れることで鮮やかな紫色に変化するのです。さらに面白いことにこの木材は、紫外線の影響で月日が経つにつれて徐々に赤ワインのような濃い赤紫色に変化していきます。そして、年数をかけてさらに落ち着いた褐色へと変化するのです。
このパープルハートの紫色は、フラボノイド類の「ペルトギノイド(英:Peltogynoid)」とキノン類の「キノンメチド(英:Quinone Methide)」という色素成分によるものです。りんごを切って放置しておくと茶色に変色することと同様なのですが、芯材に含まれるフェノール酸化酵素が空気に触れて、先の色素成分と作用し、一気に酸化することにより紫色になるといわれています。
木材に含まれる変色の原因となる物質は種類が非常に多く、変色に起因する外的要因もさまざまです。樹種によっても変化の様子が異なりますが、パープルハートは極めて特徴的な変化をする樹種の一つといえるでしょう。紫外線等による経年変化の仕組みについては、以下にて詳しく紹介しております。
18世紀のフランス、ロココ調の高級家具職人シャルル・クレッサン(Charles Cressent、1685年~1768年)は、パープルハートを収納やデスクなど、さまざまな家具の化粧面材として使用しました。クレッサンの高級家具制作技法は木目を装飾要素として使うものであり、波型模様の化粧板を好んだとされています。また、彫刻家として修行を受けていたこともあり、その専門的な技術を活かして、金鍍金ブロンズ装飾に重きをおいていました。「一段と濃い色のパープルハートを使用することで、ブロンズがより引き立つ」と、そのコントラストを好んでいたと言われています。代表的な作品は、「箪笥」「平らな書き物机」「子供をモチーフにした一対の整理箪笥」「コモード」などであり、これらはフランスのルーブル美術館が所蔵し、展示されていた記録もあります。クレッサンの代表作のひとつである「箪笥」は、19世紀の多くのフランスの高級家具職人に感銘を与えました。
その鮮やかな色から、古くから寄木細工や象嵌などの工芸品に重宝されてきたパープルハート。表面装飾材として高い評価を得ていますが、木材としても優れており、内装材に適した特性を持っています。乾燥後の狂いはほとんどなく、寸法安定性が高いことからも、フローリングに向いている木材です。欧米では、トラックの荷台の床にも使われているように土足歩行にも耐え得る非常に堅い木で、住宅の床材だけではなく、店舗といった場所にもおすすめです。また気乾比重が0.86と大きく耐久性にも優れ、シロアリに強いという特徴からデッキ材としても使用されています。
画像4:パープルハート一枚板施工例
その鮮やかな紫色はインテリアのアクセントにもなります。色彩学的に紫は高級感を漂わせる色とされており、東洋、西洋ともに昔から高貴な色として扱われていました。我が国においては、飛鳥時代(西暦603年)に聖徳太子により制定された冠位十二階の最高位(大徳)の色が、紫色と定められていました。当時、ムラサキ草の根「紫根」から作り出される紫色の染料は、時間と手間がかかり、衣として最も手に入れにくく、ごくわずかな貴族しか着ることができなかったことからも最高位の色に定められていたのです。一方、西洋では、古来より地中海で採れる「プルプラ貝」の分泌液を紫色の染料として用いてきました。その成分も2000個の貝からわずか1gしか採れないことから、大変貴重な色として扱われていました。そのため、古代ローマでも紫色は高位聖職者の色に指定されていました。また、世界三大美女のクレオパトラは紫色に魅了され、日用品の多くを紫色に染め、紫に囲まれた生活を送っていたとされています。これらのことからも、紫色は気品のある色として定着していたことがわかります。紫色は、現代でも高貴なムードを演出するときに使う色として多用されており、インテリアにおいても、ラグジュアリーなテイストにおすすめです。
当社のパープルハート商品は、独自のデューディリジェンス(英:due diligence(DD))*プログラムに基づいて、持続可能な木材資源保護に配慮して調達したものです。フローリングだけでなく、一枚板もご用意しておりますので、カウンター材としてもご使用いただけます。パープルハートの特性や最大の特徴である色味を活かして、インテリアにスパイスを取り入れてみてはいかがでしょうか。
*デューディリジェンス:様々なリスク(この場合は、木材の合法性や森林の環境保全に係るリスク)を詳細に調査する手続き。
<参考文献>
・J. Paul Getty Museum(1997)『Masterpieces of the J. Paul Getty Museum: Decorative Arts』Thames and Hudson Ltd.
・田中一幸・山中晴夫(2008)『手づくり木工大図鑑』講談社.
・ギブス、ニック・リーチ、ルシンダ・リンカーン、ビル・マーシャル、ジェーン(2006)『世界木材図鑑』産調出版.
・木方洋二(2005)「熱帯の木材」、『名古屋大学博物館報告』21、p.183-237,名古屋大学.
・松井謙介(2015)『色の教科書』桜井輝子監修,学研パブリッシング.
・社団法人日本林業技術協会編(1995)『木の100不思議』東京書籍.
・鈴木恒男(2014)「紫の不思議:紫はなぜ高貴なのか」,『日本色彩学会誌』38(3),p.156-157,慶応義塾大学.
・Marcello Iriti(2016)“Peltomexicanin, a Peltogynoid Quinone Methide from Peltogyne Mexicana Martínez Purple Heartwood” Molecules 2016, 21(2),186,[online]https://www.mdpi.com/1420-3049/21/2/186/htm(参照2019-6-27)
・Musée du Louvre,[online]https://www.louvre.fr/jp(参照2019-6-10)
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