2018.07.25 | タモ材
数ある無垢材のなかでも、広くその名が知られているタモ材。英語でアッシュと呼ばれるこの木は、力強くはっきりとした表情と、堅く粘りのある材質が好まれ、古くからさまざまな用途に利用されてきました。
今号では、そんなタモ・アッシュ材の特徴や魅力についてご紹介いたします。
■木目の表情
モクセイ科トネリコ属の広葉樹のひとつであるタモ・アッシュ材は、環孔材ならではの、はっきりとした力強い木目が特徴的です。ナラ・オーク材に似ていると評されることもありますが、木目を見ると、その違いは一目瞭然です。時として、たけのこ杢、玉杢、縮み杢、バイオリン杢など、個性的な杢(木目の模様)が現れることもあります。
■堅さ
タモ・アッシュ材は、身近では野球のバットとしてよく使用されています。そうしたことからもわかる通り、強靭で衝撃に強いことはもちろん、すぐれた弾力性をも持ち合わせています。そのため、建築材、家具材、線路の枕木などのほか、バットやラケットなどさまざまなスポーツの用具が、このタモ・アッシュ材で作られてきました。
■経年変化
タモ・アッシュ材は、透明感のある黄色味のかかった薄茶色をしています。経年に伴い、もともとの黄色味がより強くなり、次第にワントーン濃い色合いへと変化します。とは言え、その変化はとてもゆるやかなので、フローリングなど内装材として使用されている場合には、お住まいになっている方ご自身が色味の変化に気づくことは少ないでしょう。
画像4:タモ材の経年変化前(左図)と経年変化後(右図)
ここまではタモ材とアッシュ材を同様のものとしてご紹介してきましたが、同じモクセイ科トネリコ属の中でも、産地や品種の違いにより、似て非なる特徴が見られます。弊社では、東アジア産をタモ、北米産や欧州産をアッシュとしてご紹介しています。
木目の表情を見ると、タモ材の方がより目が詰まっており、板目*は山のようにツンと尖っています。一方のアッシュ材は、適度に目が粗く、板目は丸みを帯びた形をしています。詰まった木目が繊細な印象を与えるタモ材こそ、和風の空間にぴったりです。洋風に仕上げたい場合には、大柄でダイナミックなアッシュ材がお勧めです。
また双方を詳細に比較すると、アッシュ材の方が白く、タモ材はより黄色味がかった色をしています。着色するのであれば、色の白いアッシュ材の方が適当でしょう。
*板目=丸太を年輪に接するように挽いた木目で、年輪の模様が曲線になってあらわれる。
ヤチダモの「ヤチ」は漢字では「谷内」と書きます。この漢字からも分かるように、湿気の多い肥沃な水場を好む木です。「タモ」と言った場合、一般的には、このヤチダモと、アオダモ、トネリコの3種のことを示しています。数ある広葉樹の中でも最も木目がまっすぐで、年輪模様がはっきりとしています。欠点の少ない材として、古くからさまざまな用途に活用されてきました。
かつて秩父地方に多く生育していたシオジとは、しばしば同種であると混同され、地域によっては、シオジのことをヤチダモと呼んでいたところもありました。
■トネリコ(Fraxinus japonica)
かつてトネリコは「秦皮」という漢字で表されました。その樹皮を水に浸すことにより得ることのできる液体は、眼病に効くと言われています。古くから田んぼを囲むあぜ道に植えられ、刈り取った稲を掛けるために利用されてきました。ヨーロッパでは、同じくトネリコ属の「セイヨウトネリコ」についての記述がよく見られます。
■ヨーロピアンアッシュ(Fraxinus excelsior)
前述の「セイヨウトネリコ」の他、イングリッシュアッシュ、フレンチアッシュなど、産地を冠して呼ばれることもある、欧州産のアッシュ材です。すぐれた柔軟性を有しており、それを示すように、立ち木の中には曲がったりねじれたりしているものが見受けられます。
基本的には明るい色をしていますが、ドイツ、フランスなどの一部地域では、心材が深みのある暗色をしているアッシュが採れることがあり、その材は特別に「オリーブアッシュ」や「ブラウンアッシュ」などと呼ばれます。辺材は、産地によって、真っ白なものから黄色やピンクがかっているものまであります。
アメリカトネリコ、アメリカタモなどとも呼ばれる、北米産のアッシュ材です。野球のバットとしての用途が有名ですが、エレクトリックギターなどの楽器の材料として利用されることもあります。その強さと弾力性のため、古くから重宝されてきました。
北米産のアッシュではホワイトアッシュが有名ですが、他にブルーアッシュ、グリーンアッシュ、ブラックアッシュも存在します。中でも水辺に生育するブラックアッシュは、水が凍る冬場にしか伐採できないこと、加えて元来の生育量が少ないことから、希少価値の高い材として知られています。
前述の通り、さまざまなスポーツ用具にタモ・アッシュ材が使用されています。例えば、野球のバット、テニスやバトミントンのラケット、スキー板、ホッケーのスティック、ビリヤードのキューなど、タモ・アッシュ製の用具を使用している(もしくは過去に使用していた)スポーツを挙げれば数に限りがありません。
特に野球のバットとしては、「野球の神様」と言われる、ベーブ・ルースもアッシュ製のバットを使用していました。イチロー選手も、日本では国産のタモ材を、渡米以降は北米産のアッシュ材を使用されていました。しかし現在イチロー選手が使用しているバットは、そのいずれでもなく、より堅い、メープル製です。そうした変遷の背景には、タモ・アッシュ材の良材不足があります。
日本でバットの素材として使用されてきたのは、タモ材の中でもアオダモと呼ばれる種類のものです。特に北海道に生育しているアオダモはバット用として最適ですが、成長に時間を要する木であるのにも関わらず、計画的な植林がほとんどなされないまま大量に消費され続けてきたため、安定供給が困難な状況に陥っています。イチロー選手のバットも、渡米後一時アッシュ材からアオダモに戻った時期があったのですが、こうした理由により製作が困難であったため、その後メープル材が使われることになりました。なお2000年以降は、NPO法人「アオダモ資源育成の会(http://www.aodamo.net/)」が設立され、アオダモを残すため、計画的な伐採と定期的な植樹が行われてきています。
ヨーロッパにおいては、古くからアッシュ材が身近な存在であったようです。それを示すように、神話の世界においては、度々アッシュ材が登場します。
ギリシア神話にはセイヨウトネリコの木の精霊・メリアスが登場します。幼いゼウスの世話をしたうちの一人が、このメリアスという女神でした。
また北欧神話において、最初の人間であるアスクとエムブラは、セイヨウトネリコとニレ(榆)の流木から生み出されたと言われています。さらに北欧神話に登場する、世界を体現している架空の木・ユグドラシルも、セイヨウトネリコのことであるとされています。ユグドラシルは「世界樹」とも呼ばれ、ゲルマンの神々が集まる場所、そしてすべての生き物が生じる場所として描かれています。ドイツの作曲家・ワーグナー(Wilhelm Richard Wagner、1813年5月22日 – 1883年2月13日)が北欧神話から着想した全四部作の大作「ニーベルングの指環」の4作目「神々の黄昏」の冒頭では、以下のように歌われています。
「一人の大胆な神が水を飲みに泉にやって来て 永遠の叡智を得た代償に片方の目を差し出しました そして世界樹のトネリコの木から枝を一本折り その枝から槍の柄を作りました 長い年月とともに その枝の傷は 森のような大樹を弱らせました 葉が黄ばんで落ち 木はついに枯れてしまいました」
北欧神話が生まれたはるか昔の時代から、タモ・アッシュ材が身近な木材であったことが分かる一節です。
神話に登場したり、スポーツ用具に利用されたりと、古くからタモ・アッシュ材は人々に愛されてきました。歴史に裏打ちされた良材を、ぜひお部屋に取り入れてみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
日本木材加工技術協会(1984)「日本の木材」
平井信二(1996)「木の大百科」朝倉書店.
丹羽政善(2016)「イチローのバット、再び黒に 背景にアオダモ消滅」<https://www.nikkei.com/article/DGXMZO98675140Q6A320C1000000/>(参照2018.7.2)
「アオダモ資源育成の会」<http://www.aodamo.net/>(参照2018.7.4)
高津春繁(1960)「ギリシア・ローマ神話辞典」岩波書店.
リヒャルト・ワーグナー(1996)『神々の黄昏:舞台祝祭劇「ニーベルングの指環」第3日 (ワーグナー・オペラ対訳シリーズ)』(三光長治、高辻知義、三宅幸夫編訳)白水社.
V.G.ネッケル・ほか編(1973) 『エッダ―古代北欧歌謡集』(谷口幸男訳)新潮社.
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