方向によって異なる割合
含水率が繊維飽和点以下になると、木材は収縮を始めます。この時、繊維の配列と細胞の組合せによって、方向ごとの伸び縮みの割合=収縮率は異なります。
針葉樹、広葉樹を問わず、どんな樹種も板目(接線)方向が最も大きく収縮し、ついで柾目(半径)方向が大きく、長さ(繊維)方向にはほとんど収縮しません。これを収縮率の異方性と言い、接線10:半径5:繊維0.2〜0.5と大きな差があります。(ただし、樹種や比重などによってかなり異なる場合があります。一般的に接線方向と半径方向の収縮異方性は低比重材ほど大きいといわれております。)
木材の直交3軸
木材の含水率と収縮率の関係
100mm角のサイコロ状の生材を乾燥させたとして、接線方向は10mm、半径方向は5mm縮むのに対して、長さ方向は縮んだとしてもわずか0.5mm。気乾材の場合でも、板目板の幅方向では含水率が1%変化した時に約0.2〜0.4%収縮するのに対して、柾目板の幅方向はその半分ほどです。いずれの場合も、長さ方向はほとんど収縮しません。すし桶やお櫃のような水分の吸湿・放出を頻繁に行うものに柾目の板を多用するのは、理にかなっているのです。もちろん、風呂桶も同様です。一般には、比重の大きい樹種ほど収縮率は高くなり、製材の場合は薄い板の方が湿度変化の影響を受けやすくなります。
収縮率と一言でいっても、その表し方は様々です。生材から水分が全くない状態(全乾状態)の収縮率を『全収縮率』、生材から含水率15%までの収縮率を『気乾収縮率』、含水率15%のときの長さを基準にした含水率1%あたりの収縮率を『平均収縮率』といいます。『気乾収縮率』を利用して乾燥の歩留まりを算出したり、また『平均収縮率』を、フローリングの施工のエクスパンションの目安にしたりと、時と場合によって異なる収縮率が使われています。
木にとって水は、生長しているときも、建材になってからも、切り離せない存在です。伸び縮みするからこそ、水をためたりはき出したり出来ると言えます。それでもお客様には、木は使いたいけれども伸び縮みがどうしても気になるという方もいらっしゃるでしょう。また、高気密化が進む最近の住環境では、暖房の使用で室内が乾燥し、短期間で含水率がぐんと下がり、そのために収縮率が上がることも考えられます。
また、施工の際に現場の温度・湿度をしっかりチェックするということも重要なポイントです。面倒だと思われるかもしれませんが、フローリング施工前の現場に温湿度計を置くだけと非常に簡単です。ぜひ試してみてください。
生材を切断後、乾燥した材の変形