木材の性質をあらわすとき、「重い、軽い」「硬い、柔らかい」「強い、弱い」といった言葉を使いますが、このような性質の違いは、樹種によって異なる細胞レベルの特性を把握することで理解が深まります。植物も動物と同様に細胞ひとつひとつが積み重なって構成されていますが、木目という木の表情も細胞・組織によるものです。
木の知識を総合的に蓄積していくために、「針葉樹と広葉樹の違い」という基礎的な情報をお伝えします。自然が生んだ豊かな特性を活かし、「適材適所」の木材選びをするためには、様々な樹種の様々な性質を理解することが大切です。
針葉樹と広葉樹は「細胞」が違う
先がとがり細い葉の針葉樹と、扁平な形の葉の広葉樹。針葉樹と広葉樹は、一般に知られているように葉の形から見分けられます。幹は、針葉樹はまっすぐ伸びているのに対し、広葉樹は太くて曲がっていることが多く、さらに枝分かれしているのが特徴です。
外見の違いだけではなく、針葉樹と広葉樹は細胞と組織の成り立ちが異なっています。針葉樹の組織は単純で、大半の樹種は90%以上が仮道管で占められています。仮道管とは、水を根から樹幹を通して葉へ送る通路のことですが、木そのものを支える役目も担っています。細胞の構成は非常に単純で、配列は整然としています。広葉樹の組織構造は複雑で、細胞の種類が多いだけではなく、細胞ごとの機能も分業・専門化しています。水分の通り道は主に道管が、木を支えるのは主に木部繊維が担っています。
また、養分の貯蔵機能をもつ柔組織といわれる組織も発達しています。人間の身体に置き換えて、筋肉と血管がひとつになっているのが針葉樹、筋肉と血管がそれぞれ独立して別々の働きをしているのが広葉樹と考えると分かりやすいかも知れません。複雑な構造をもつ広葉樹は、針葉樹に比べ多様な性質を持つことになります。
針葉樹マリタイムパインの立木
広葉樹チークの立木
バラエティーに富む広葉樹
英語で針葉樹をソフトウッド、広葉樹をハードウッドと言うように、針葉樹は軽くて柔らかく、広葉樹は重くて硬いといわれています。これは木が含んでいる空気の量に関係しています。木を構成する細胞と細胞の間には、無数の孔=空気の隙間が空いていて、細胞と空気の隙間の割合を空隙率(クウゲキリツ)といいます。大半の広葉樹は空隙率が低いため気乾比重が大きく、木は重くなります。逆に針葉樹は空隙率が高くなり、比重も小さく、木は軽くなります。硬さの違いに関しては、空隙率の低い広葉樹は細胞の密度が高いために硬くなり、針葉樹は密度が低いために柔らかくなるというわけです。
ところで、広葉樹には、重くて硬いという一般的な認識からはずれる樹種もあります。針葉樹の樹種は540種と言われているのに対して、広葉樹は20万種と格段に多く、さらに構造も複雑なことから、性質もバラエティーに富んでいます。
たとえば世界で一番軽い木として知られ、模型飛行機の材料としておなじみのパンヤ科のバルサは、広葉樹なのに発泡スチロールのように軽くて柔らかく、板状のものならハサミやカッターで簡単に切ることができます。また、世界で一番重い木はハマビシ科のリグナムバイタですが、こちらも広葉樹です。船舶のスクリューの軸受けに使われる木ですが、重くて硬いため、金属の加工機械がないと切れないほどです。水に入れてみるとその違いは一目瞭然で、バルサは浮きますが、リグナムバイタは完全に沈んでしまいます。バルサの比重は0.1で、細胞の密度はわずか7%、残りの93%はすべて空気です。一方のリグナムバイタの比重は1.3。87%が細胞で、空気はわずか13%です。同じ広葉樹でもこの二種の性質は正反対と言っていいほどに違うのです。
バルサ
電子顕微鏡写真
リグナムバイタ
電子顕微鏡写真
(写真提供:森林総合研究所)
水に浮かぶ木・沈む木
特徴を活かして適材適所に
上記のように広葉樹は多様な性質を持っていますが、一般的には内装材に使う広葉樹は重くて硬いものが主流で、強度があり、キズが付きにくい材料といえます。このことから、靴を履いたまま暮らす文化の欧米では、広葉樹は床材に重宝されてきました。家具材に広葉樹が多いのも、このような特徴を活かしてのことです。
たとえば、イタリアを代表する建築家で家具デザイナーのジオ・ポンティが1973年にデザインした椅子「スーパーレッジェーラ」は、広葉樹のアッシュを使っています。日本語に訳すと「超軽量椅子」という名の通り、1.3㎏という指一本で持ち上げられるほどの軽い椅子ですが、構造的な工夫とともに、アッシュの強度とねばり強さにより、椅子としての耐久性も充分に確保されています。また、このような特性を活かして野球のバットにもアッシュが使用されています。
「スーパーレッジェーラ」
ジオ・ポンティ作
一方、軽くて柔らかく単純な構造をもつ針葉樹は、柱や梁といった建築の構造材に多用されてきました。縦にまっすぐな材を切り出しやすく、軽くて扱いやすいのがその理由です。電動工具などの機械がなかった時代に、建築材料としての必須条件が揃っていたのです。針葉樹はそのほかにも、造作材や建具材、室内では靴を脱ぐ日本の住環境においては廊下などにも使われてきました。ところで、木工の技術である「木殺し」は、ホゾ組などの際に、ホゾを玄翁で叩いて圧縮してから組んでいく昔ながらの技術ですが、縮んだ木材はその後ゆっくりと復元し、結果として隙間無くしっかりと接合されます。これも軽くて柔らかい針葉樹だからこそ活きる技と言えるでしょう。
こうした針葉樹と広葉樹の材料としての違いは、建築材料だけはなく、生活の場にもあらわれます。たとえば薪として使う場合、針葉樹は割りやすく、よく燃えますが、すぐに燃え尽きてしまいます。広葉樹の薪は着火しにくいものの、一度燃えればゆっくり時間をかけて燃え、熾きも長持ちすると言われています。