松煙仕上げ

 無垢材をはじめ、天然素材に対する注目度が高まるにつれ、日本の伝統的な技法・手法が見直されています。塗料もその1つで、柿渋やベンガラ、松煙などの伝統塗料が俄かに脚光を集めています。
■松煙とは

 松煙はその名の通り、樹脂含量の多い松(特に根元の部分)を不完全燃焼させてつくった煤(すす)を集めた炭素黒色顔料のことで、和墨の原料として知られています。その歴史は古く、後白河天皇(1155〜1192)の頃から紀州松煙が賞賛されていたという記録が残されています。西洋でもインクの材料として使用され、カーボンブラックが生産されるまでは、最も純粋な炭素黒色顔料とされていました。また、日本では松煙染や線香花火の原料などにも用いられています。
 松煙の色は基本的に純粋な黒色ですが、白色の顔料を混ぜると青みを帯びた灰色になるなど、重厚からカジュアルまで、様々な雰囲気を出すことができます。

<松煙の製法>

 現代の製法は、松脂・樹脂・タールなどを鋳鉄製の皿に入れ、それを下から加熱して不完全燃焼させてできた煤を集めてつくります。皿から遠いほど粒子が細かく高品質のものがとれ、皿に近いところにあるものは品質が悪く、生産効率は原材料の重量の3割程度とされています。そのため、希少価値が高く、入手困難な状態が続いていましたが、最近になって、存在が見直されてからは安定的に入手できるようになっています。
■本物の「黒」を愉しむ

 松煙の黒色は天然の黒色で、化学的につくられた黒色よりも素材に深みと重厚感を与えるなど、天然木にとって最適な塗料といえます。
 また、ベンガラや柿渋と混合して使用することで、色合いに奥行きを与えるとともに、防腐・防虫効果を高める役割も果たしています。
 本物の黒色の様々な雰囲気を出したり、天然顔料や自然塗料などと組合せて色彩に深みをつけたり、と松煙を活用することで、無垢材の表現力をアップし、楽しみ方を拡げることができます。
<塗装方法>

 松煙は水に溶けにくいため、アルコール類に溶かしてから水で希釈して濃度を調整します。濃度を濃くすると、重厚感のある「古色」に仕上がり、薄くすると透明感のある黒色になって、木目を活かした仕上がりになります。
 仕上げにオイルフィニッシュ「Arbor植物オイル」を使用すると表面を保護し、色落ちを防ぐことができます。また、フローリングなど磨耗する可能性のある場所に使用する場合は、塗料の定着と表面保護のためウレタンコーティングを施します。
 なお、松煙仕上げには杉・ヒノキといった針葉樹や、広葉樹でもナラ・タモといった木目のはっきりしている環孔材が適しています。散孔材は木目が目立たなくなってしまうため、あまり向いていません。