ベンガラ塗装

 和のテイストが見直されているなか、塗装仕上げにおいても日本の伝統的な塗料・塗装方法に注目が集まり、新鮮な「色」として受け入れられています。飛鳥時代の建築物にも用いられていたベンガラは、防腐効果も備えています。
■欧州を魅了したベンガラ

 ベンガラは「弁柄」あるいは「紅殻」とも表記されますが、酸化第二鉄を主成分とした赤色顔料のことで、その発祥はインドのベンガル地方といわれ、それにちなんで「ベンガラ」と呼ばれるようになったと言われています。
 国産のベンガラが広まるまでは主に中国から輸入され、建築木材の塗料に使われていました。飛鳥・白鳳時代の寺院や宮殿の柱に使用され、奈良・薬師寺の西塔の円柱もベンガラで塗装されています。
 その後、宝暦年間に、原料となるローハ(硫酸鉄)を人工的に凝結できるようになり、生産量が飛躍的に伸びると急速に普及。陶磁器の模様書や、輪島塗をはじめとした漆器の下塗り、家具塗装、染料、船舶の錆止めなど、幅広い用途に使われるようになりました。特に、加賀の九谷焼や有田の伊万里焼の名工たちは競って使用し、「赤絵」と呼ばれる新境地を開拓。その独特の美しさは、鎖国体制の江戸時代における唯一の交易国であったオランダ人によってヨーロッパ各地に伝えられ、多くの人々を魅了したと言われています。
 現代では、ガラス・宝石の研磨剤、建築鉄骨や自動車・船舶の防錆用塗料、そして意外なところでは磁気テープやフロッピーディスクにも使われています。また、瓦の着色にも用いられ、山陰地方の赤瓦は魔除けの意味が込められています。

<ベンガラの製法>

①ローハ(硫酸鉄)の原石を砕き、薪とローハを交互に積み、釜で焼く。
②焼き上げたら釜の口を塞いで冷やした後、取り出して熱湯を加えてかき混ぜ、溶けた溶液を水槽に入れて不純物を沈殿させる。
③上澄み液を釜に入れて焚き、水槽に入れ、緑色の結晶(精製ローハ)にする。
④臼挽きして完成
褐色    茶色    朱色

褐色    茶色    朱色

ベンガラというと鮮やかな朱色(写真右)イメージが強いと思われますが、茶色(同中)や褐色(同左)などの種類があり、内装デザイン等に合わせて選ぶこごができます。写真はナラ材に着色したもの。
■伝統の赤を味わう

 飛鳥時代の昔から、私たち日本人に愛されてきたベンガラ。その艶やかで美しい赤色に加えて、天然の防腐・防錆効果が得られることから、床や造作材、カウンターといった内装材の仕上げだけでなく、構造材に使用すれば耐久性を高めることができます。
 日本の伝統色であるベンガラは伝統的な和空間に使用すれば、趣をさらに深められるのはもちろんですが、それ以外の雰囲気を持つ空間の一部に使用し、和のエッセンスを採り入れるなど、隠し味的な使い方も一興といえます。
 なお、ベンガラは天然原料を使用していることから、赤色といっても褐色に近いものから、鮮やかな朱色まで、様々な色合いがあります。

<上塗りで表面を保護>
ベンガラという塗料自体、耐摩耗性は低いため、床や手に触れる場所に用いる際は、「拭き漆」やオイルフィニッシュ「Arbor植物オイル」を上塗りすることでベンガラの塗装面を保護、塗装の剥がれを防ぐことができます。