遥か6千年も前から利用されてきた漆。酸やアルカリに侵されず、化学物質の溶出もないためシックハウス症候群の心配もありません。自然環境への配慮や健康への関心の高まりとともに、光沢のある自然塗料として大いに注目されています。
■6千年前から伝えられている漆塗り
現存している最古の漆塗りの出土品は、今から約6,000年前の中国の新石器時代早期の漆器とされています。日本においても約5,500年前の縄文時代前期の出土品が確認されています。世界4大文明(エジプト・メソポタミア・インダス・黄河)が4,000〜5,000年前であることを考え合わせますと、そのさらに1,000〜2,000年も前から、既に中国や日本では漆を生活の中に採り入れていたことになります。
■光沢を放つ自然塗料
日本において漆は社寺建築や庶民の住宅・建具・家具・食器・茶道具などに使用されてきた深い歴史があります。特に住宅の塗装としては古くから拭き漆(摺り漆)の手法が一般的に用いられ、防腐・防錆・抗菌性が求められる玄関・台所・洗面所・便所といった場所の床や壁に使われてきました。現代ではエコロジカルな自然塗料として、そして100%植物性でありながら美麗な光沢を放つ塗料として、建築への需要が高まっています。
■新精製法から生まれた『現代の漆』
従来の精製法(鉢くろめ法)では、脱水(乾燥)工程において加熱を行っていました。漆は加熱されると硬化・乾燥に関与する酵素ラッカーゼの活性が低下するため、乾燥には気温20〜30℃、湿度50〜70%の環境が必要でした。
新しい精製法(三本ロールミル精製法)では、加熱を必要としないために酵素の活性が保たれます。その結果、次の特徴を持った漆が開発されました。
①乾燥硬化が速く、低温・低湿度で乾燥する。
(気温10℃、湿度60%の環境でも18時間で乾燥)
②透明度・光沢度が高くなる。
③塗膜硬度がH6で傷がつきにくい。
④熱湯に触れても変色しない。
⑤耐候性に優れ、光沢保持率が高い。
《漆塗りの経年変化》
新精製法によって耐候性は高まっていますが、漆の塗装膜は紫外線を吸収すると徐々に表面が分解され光沢が衰えていきます。そのため直射日光のあたる床などへの使用は避けることをお奨めします。なお劣化が進んだ場合でも現場での再塗装が可能です。
■漆の多彩な表現力
漆塗りは日本の伝統的な塗装方法ですが、輸入材や和風以外の空間に使用しても独特の趣が得られます。例えば、広葉樹の環孔材であるホワイトアッシュに塗装すると、光沢のある部分と光沢のない木目部分との差が明瞭になり、深く立体的な表情を楽しむことができます。
漆本来の色は茶褐色ですが、重ね塗りすることで色合いの深みを増すことができます。また顔料を混ぜ合わせることで「漆黒」や「朱」に仕上げることができるなど多彩な表現力を備えています。
ホワイトアッシュに (左)透け漆を2回塗りしたもの (右)濃暗色漆を厚塗りしたもの
■漆塗装品に関する注意点
乳幼児や皮膚が敏感な方が漆の塗装面に触れると、漆カブレ(アレルギー性の症状)を起こすことが有ります。そのため塗装後3週間位は施工された部屋に入らない、直接肌で触れない、などの注意が必要です。